空飛ぶクルマとは|国の資料での定義
「空飛ぶクルマ」は、ふだんの会話で使う言葉のように見えますが、国の資料にも載っている言葉です。国土交通省と経済産業省が開く「空の移動革命に向けた官民協議会」の文書で、次のように定義されています。
国の文書での定義
「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」(空飛ぶクルマ(AAM)の運用概念 第2版、2026年3月27日)
この定義で大事なのは、特定の機体の形を指していないことです。「電動」「自動」「垂直に離着陸する」といった特徴を挙げたうえで、「利用しやすく持続可能な移動手段」と目的で説明しています。ロードマップの冒頭でも、「いわゆる“空飛ぶクルマ(AAM)”、電動・垂直離着陸型・自動操縦の航空機などによる身近で手軽な空の移動手段」と書かれています(空の移動革命に向けたロードマップ2026)。「いわゆる」「など」と幅を持たせた書き方になっているのは、まだ発展の途中の分野だからです。運用概念の文書自身も、「AAM 産業は発展途上」であり、文書は常に進化することを想定していると述べています。
この文書の役目は、国や会社、自治体が同じ絵を見て話せるようにすることです。機体、離着陸場、空の交通整理、働く人の役割、段階的な広がり方までをまとめて説明しています。この記事でも、定義や分類はこの文書を土台にしています。
AAM・UAM・RAM・eVTOL の違い
調べていると、よく似た英語の略語がいくつも出てきます。運用概念の文書に沿って整理すると、指しているものの大きさが違います。
| 言葉 | 読み下し | 指しているもの |
|---|---|---|
| AAM | Advanced Air Mobility | 「空飛ぶクルマ」に当たる国際的な呼び方。機体だけでなく、運航全体を含む |
| UAM | Urban Air Mobility | AAM のうち、主に都市部で行う短距離・低高度の運航 |
| RAM | Regional Air Mobility | AAM のうち、より長い距離を飛ぶ運航 |
| eVTOL | electric Vertical Take-Off and Landing | 電力で垂直に離着陸する航空機。機体の種類を指す言葉 |
つまり、AAM が「空の新しい移動の仕組み全体」で、eVTOL はそこで使う「機体」です。2026年3月の改訂で、国の文書は「空飛ぶクルマ」の表記を「空飛ぶクルマ(AAM)」に変えました。国際的な議論と言葉をそろえるためです。eVTOL の仕組みをくわしく知りたい方はeVTOL とはをご覧ください。
なぜ「クルマ」と呼ぶのに航空機なのか
「空飛ぶクルマ」と聞くと、道路を走っていて、そのまま飛び立つ車を思い浮かべるかもしれません。ところが、いま開発の中心にある機体のほとんどには、道路を走る機能がありません。国の文書は注記で次のように説明しています。
「日常的な移動手段として利用するイメージで『クルマ』と称しているが、航空法上の航空機に該当し、必ずしも道路を走行する機能を有している訳ではない」(運用概念 第2版 の脚注)。
SkyDrive も公式の質問集で、「一般的な道路を走る『自動車』ではなく、航空機として扱われる移動手段です」と答え、呼び名については「誰もが日常的に使える、車のように身近な空の乗り物を目指していることに由来します」と説明しています(SkyDrive の FAQ)。万博協会の説明も、クルマのように人々の生活に欠かせない存在となることを目指して「空飛ぶクルマ」と呼ばれている、というものです(大阪・関西万博公式サイト)。
つまり「クルマ」は形や機能の話ではなく、「車のように身近な乗り物にしたい」という目標の言葉です。
航空機だから何が変わるのか
航空機として扱われると、車とはまったく違う決まりが当てはまります。主な点を、公式の資料から並べます。
| 項目 | 決まりの内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 機体の安全 | 国の型式証明の審査を受ける。機体メーカーが機体ごとの型式証明を取り、安全を保ち続ける責任を負う | 運用概念 第2版 |
| 操縦する人 | 航空従事者の技能証明が必要で、当面は機体の型式ごとに限定を付ける | 制度整備の概要 |
| 整備する人 | 操縦士と同じく当面は型式限定。電気で動く発動機の科目を航空整備士の学科試験に追加 | 制度整備の概要 |
| 運航する会社 | 認証された機体に加えて、航空運送事業の許可や規程類の認可が必要 | 運用概念 第2版 |
| 離着陸する場所 | 「バーティポート」は航空法上の「空港等」に当たり、ヘリポートのうち空飛ぶクルマ専用のものという位置づけ | 運用概念 第2版 |
法律の分け方も決まっています。固定翼(主に翼で浮く)を持つ型は「飛行機」、回転翼で浮いて進む型は「回転翼航空機」と当面整理されます。省令では、空飛ぶクルマを「垂直離着陸飛行機」「マルチローター」と規定し、電気で作動するものを「発動機」に、電気エネルギーを「燃料」に含めるよう整理しました(空飛ぶクルマに関する制度整備の概要、2024年4月23日)。
運転免許で空飛ぶクルマを操縦できるわけではありません。乗客として乗るだけなら資格は要りませんが、操縦には航空関連の資格が要ります(SkyDrive の FAQ)。資格の話は空飛ぶクルマの操縦に必要な免許で扱います。
ヘリコプター・ドローンとの違い
空飛ぶクルマは、ヘリコプターとドローンの間にあるように見えます。公式の資料に書かれている範囲で比べると、次のようになります。
| 比べる点 | 空飛ぶクルマ(eVTOL) | ヘリコプター | ドローン(無人航空機) |
|---|---|---|---|
| 人を乗せるか | 乗せる(初期は操縦者が乗り、1〜5人乗り程度を想定) | 乗せる | 人を乗せない |
| 動力 | 電気が中心。ハイブリッドや将来の水素もある | エンジン(SkyDrive の説明による) | 機体による |
| 回転翼 | 小さなローターを複数 | 基本的にメインローター1つに依存 | 機体による |
| 安全の基準 | 航空機の型式証明 | 航空機の型式証明 | 空飛ぶクルマの範囲に含まれない |
| 飛ぶ高さ | 離着陸時を除き最低安全高度以上 | 同じく航空法の決まりに従う | 地上150m未満が原則 |
| 離着陸 | バーティポート(既存のヘリポートも活用) | ヘリポート | 機体と運用による |
出典: 運用概念 第2版、SkyDrive の FAQ、SkyDrive の機体ページ。
ヘリコプターとの違いは「電動」と「ローターの数」
SkyDrive は、主な違いは動力と静かさだと説明しています。電動で複数のローターを使うため、エンジン式のヘリコプターより静かで、整備が簡単になり、運航の費用も抑えられると期待されているとのことです。国の文書も、従来の機体と比べた特徴として、排出ガスの低減、騒音の低減、複数のモーターによる高い冗長性(一部が壊れても他で補える余裕)、部品数の減少によるコスト低下の可能性を挙げています。
ただ、国の文書の書き方は「期待される」「可能性がある」です。バッテリーは液体燃料よりエネルギー密度が低く、航続距離や積める重さが制限される可能性があるとも書かれており、ヘリコプターより何もかも優れているという説明ではありません。
騒音については会社の公表値があります。SkyDrive は自社の機体について、高度150mを飛ぶときの騒音は約65dB、ヘリコプターの騒音は80〜100dBと公式ページで示しています(SkyDrive の機体ページ)。Joby は巡航時に500m離れた地点で45dBA、着陸時に100m離れた地点で65dBAと公表しています(Joby の技術ページ)。測る距離や条件が違うので、機体どうしの優劣をこの数字だけで決めることはできません。
国の文書は、従来機より騒音が減ることを期待しつつ、「運用環境がより身近になること及びローターが高い周波数の音を発生することも考えられることから、従来機にはなかった問題が生じる可能性がある」と指摘しています。静かになっても、頭上を飛ぶ回数が増えれば別の問題が生まれるかもしれない、という意味です。
ドローンとの違いは「人を乗せるか」と「法律の区分」
見た目が大きなドローンのように見える機体もありますが、国の文書は「空飛ぶクルマ(AAM)に無人航空機であるドローンは含まれない」と明記しています。SkyDrive の説明でも、最大の違いは「人を乗せて運べる」点で、有人飛行を前提に航空機と同じ厳しい安全基準で開発されます。
飛ぶ高さも原則として分かれています。ドローンは地上から150m未満での飛行が原則で、空飛ぶクルマのうち都市部を飛ぶものは、離着陸のときを除いて最低安全高度以上を飛ぶ必要があります。そのため、巡航する空域は一定程度分かれていると国の文書は考えています。ただし空港やバーティポートの周りでは同じ空域を飛ぶ場合もあり、そのときの安全な間隔の取り方が課題として挙げられています。
注意したいのは、操縦者が乗らないからドローン、というわけではないことです。国のロードマップは、将来、操縦者が乗らずに旅客を運ぶ空飛ぶクルマも想定しています。この場合の「遠隔操縦」は、自動化のレベルに関係なく「操縦者が搭乗していないこと」を指す言葉として使われています。
空飛ぶクルマの求人をチェック
求人一覧を見る機体の型は3つ|マルチコプター・リフト+クルーズ・ベクタードスラスト
空飛ぶクルマに使う eVTOL は、国の文書で主に3つの型に分けられています。一番の違いは「翼があるか」と「飛び方によってプロペラを使い分けるか」です。国の文書は「マルチローター」と書き、SkyDrive の質問集は「マルチコプター」と書いていますが、同じ型を指しています。
| 型 | 翼 | 浮き方と進み方 | 得意なこと | 航空法上の整理(当面) |
|---|---|---|---|---|
| マルチローター(マルチコプター) | なし | 3つ以上の電動の回転翼で浮いて進む。モーターの回転速度を変えて姿勢を変える | 短距離。巡航時のバッテリーの消耗が激しい | 回転翼航空機 |
| リフト・クルーズ | 固定翼あり | 離着陸は上向きのローター、巡航はそのローターを止めて前向きのプロペラと翼で飛ぶ | マルチローターより長距離 | 飛行機 |
| ベクタードスラスト | 固定翼あり | 推進装置の一部または全部を傾け、離着陸と巡航で共通に使う | 長距離に適し、より高い巡航速度と距離の可能性 | 飛行機 |
出典: 運用概念 第2版 2.2.1章。型式証明の審査で使う正式な用語は機体の設計ごとに決まると文書に注記があります。
なぜ会社によって選ぶ型が違うのか
どの型にも得意と不得意があり、「どこを飛ぶか」で向き不向きが変わるためです。開発している会社の公式の説明を見ると、考え方の違いがよく分かります。
- SkyDrive(マルチローター):2026年9月24日に公開した機体設計コンセプトで、すべての用途に当てはまる「正解」はないと前置きしたうえで、都市部の短距離移動では狭い場所への離着陸が最も大事だとして、コンパクトなマルチローターを選んだと説明しています。翼や飛行モードを切り替える機構を足すと、重く複雑になり、ホバリング(空中で止まること)に必要な出力も増えるという理由です(SkyDrive の発表)。同社も、長距離の効率では翼のある型が優位だと認めています。
- Honda(リフト&クルーズ):垂直離着陸用に8つ、推進用に2つのローターを備え、機能を分けることで冗長性を確保すると説明しています。ローターの角度を変えるティルトローターは燃費の面で有利だが、機能がまとまっている分、故障時に他の機能で補うのが難しくなるという考えです(Honda の技術解説)。
- Joby(傾くプロペラと固定翼):6基の傾くプロペラと固定翼を持ち、ヘリコプターのように離着陸して、飛行機のように水平に飛びます。傾くプロペラの仕組みで、垂直離着陸と高速の巡航を両立させるとしています(Joby の技術ページ)。国の分類に当てはめるとベクタードスラストに当たります(当てはめは編集部)。
同じ「空飛ぶクルマ」でも、街なかの数十キロと都市間の数百キロでは、まったく違う乗り物になりそうだということです。
何人乗りで、どのくらい速く、どこまで飛べるのか
結論を言うと、機体によってかなり違います。SkyDrive は質問集で、開発が進む多くの機体はパイロットを含む2〜5人乗り程度、速度は時速100〜300km程度を想定する機体が多いと説明しています。国の文書は、航続距離の目安を数kmから数百kmとしています。各社の公式の数字を並べます。
| 機体(会社) | 乗れる人数 | 速度 | 航続距離 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|---|
| SKYDRIVE SD-05型(SkyDrive) | 3名(操縦士1名+乗客2名) | 最大巡航 100km/h | 15〜40km | 公式の機体ページ(2026-11-03確認) |
| Joby S4(Joby Aviation) | 5名(操縦士1名+乗客4名) | 最高 320km/h | 160km | ANAホールディングス決算説明資料(2025-10-30)。速度はJoby の公式も最大200mph |
| Midnight(Archer Aviation) | 5名(旅客4名+パイロット1名) | 最高 240km/h | 160km | Soracle の発表(2026-08-21) |
| Honda eVTOL(本田技研工業) | 乗客4名以上+パイロット1名を想定 | 公表値を確認できず | 最大 400km を想定 | Honda R&D の公式ページ(開発段階は「技術検証中」) |
| HEXA(LIFT Aircraft) | 1名 | 公表値を確認できず | 飛行時間 約10〜15分 | 丸紅の発表(2025-05-01) |
| EH216-S(EHang) | 公式ページで確認できず(操縦者は乗らない) | 最大設計速度 130km/h | 30km | EHang の公式ページ |
この表を読むときの注意点が3つあります。
- 開発中の数字です。日本で型式証明を取得した機体は、確かめた範囲では見つかりません。実際に運航するときの数字は変わる可能性があります。SkyDrive も、実際の運航距離は天候や搭乗人数、ルートなどで変わると書いています。
- 古い数字が残っています。例えば SkyDrive の SD-05 は、2023年4月の発表では2人乗り、最大航続距離 約10kmでした(2023年4月13日の発表)。いまの公式の数字は3人乗り、15〜40kmです。古い記事の数字をそのまま信じないようにしてください。
- 同じ条件で測った比較ではありません。「速いほうが優れている」とは言えず、都市内の短距離に使うのか、都市間に使うのかで求められる数字が変わります。
大阪・関西万博で実際に何が飛んだのか
2025年の大阪・関西万博は、空飛ぶクルマが多くの人の前で飛んだ機会でした。ただし、計画と実際には違いがあります。公式の発表で確かめられた内容を整理します。
| 機体 | 担当 | 実際にどうなったか | 出典 |
|---|---|---|---|
| HEXA | 丸紅 | 4月からデモ飛行。4月26日に機体の一部が損傷して見合わせ、7月11日の発表で、7月12日から再開 | 丸紅(デモ飛行の発表)・損傷の発表・再開の発表 |
| SKYDRIVE(SD-05型) | SkyDrive | 7月31日〜8月24日に万博会場でデモ飛行(天候などで一部運休)。9月14日〜23日には大阪港バーティポートでも実施 | SkyDrive の発表(2025-10-09) |
| Joby S4 | ANAホールディングス/Joby Aviation | 10月1日〜13日にデモ飛行を実施(ANAの特別塗装機) | ANAホールディングス決算説明資料 |
| Midnight | Soracle | 実機サイズのモデル機を展示(飛行の発表は確かめた範囲で見つからず)。8日間で5,500名以上が来場したと同社は発表 | Soracle の事業紹介 |
| VX4(Vertical Aerospace) | 丸紅 | 10月からのデモ飛行を目指していたが見送り。キャビンの搭乗体験は予定どおり8月から提供 | 丸紅の発表(2025-07-08) |
行われたのは、会場の周りを飛ぶ様子を見てもらう「デモ飛行」です。来場者を乗せて運賃を受け取る商用運航が万博で行われたという発表は、確かめた範囲では見つかりませんでした。2022年のロードマップ改訂案には「万博における旅客輸送等を想定」した基準整備が書かれていましたが(第8回官民協議会の資料)、実際にはデモ飛行にとどまったことになります。
HEXA の部品の落下と、分かった原因
万博のデモ飛行中に起きたのが、HEXA の機体損傷です。丸紅によると、2025年4月26日15時頃のデモ飛行中に、18個あるプロペラ・モーターのうち1個と機体フレーム1本が破損し、アーム部分のモーターカバー2つがポート内に落下しました。パイロットを含めけが人はなく、ポートの損傷もありませんでした。
原因は7月8日に発表されました。モーターを載せる箇所の部品について、サプライヤーが仕様と異なる素材の部品を誤って供給していたというものです。部品の交換や重要部品の再点検、LIFT 社の部品受領と品質管理の包括的な監査を経て、7月9日〜11日に段階的な試験を行い、7月12日からの再開が発表されました。部品1つの管理が機体全体の安全に関わるという、航空機づくりの厳しさを示す例です。
万博のあとに続いていること
万博で終わりではありません。SkyDrive は大阪港バーティポートで18日間の運航体制を組み、その後も飛行を重ねて、2024年11月の初飛行試験から約1年半で累計300フライトを事故なく実施したと発表しました(2026年7月2日)。この間には東京都内でのデモ飛行や、実用の速度域である時速100kmでの安定飛行の確認もありました(2026年6月24日)。2026年7月13日には、山口県で瀬戸内海の遊覧を想定したデモ飛行も行っています(発表)。
空飛ぶクルマの値段はいくらか
機体の値段を公式に公表している例は、確かめた範囲では多くありません。「買う値段」と「乗る値段」に分けて整理します。
| 何の値段か | 公表の内容 | 出典 |
|---|---|---|
| EH216-S の機体(中国) | 希望小売価格 239万人民元(2024年4月1日から適用と発表) | EHang の発表(2024-02-01) |
| EH216-S の機体(中国以外) | 希望小売価格 41万米ドル | EHang の発表(2024-02) |
| SKYDRIVE SD-05型の機体 | 個人向けの予約販売の発表文(2023年4月)に価格の記載なし。公式の機体ページにも価格の記載なし | SkyDrive の発表・機体ページ |
| 日本での運賃 | 一般向け商用運航の前で、具体的な料金はサービス開始時に公表とのこと | SkyDrive の FAQ |
EH216-S の価格は、操縦者が乗らない方式の機体のもので、他の機体の相場を示すものではありません。また、発表から2年以上たっています。
SkyDrive は、運賃は機体、距離、運航頻度、離着陸場の使用料、保険、整備費などで決まると説明しています。個人で持てるかについては、当面は「乗る」サービス型の提供が中心となる見込みとしています。国の文書も、自家用として個人が持つ使い方を「将来的に」想定されるものとして挙げており、ロードマップでは自家用運航は商用運航に合わせて普及すると見込まれています。すぐに買って自宅から飛ばせる乗り物ではない、と考えるのが実情に合います。
費用の面で国の文書が挙げているのは、部品数の減少や整備の簡易化で、整備費、製造費、運用費が長期的に下がる可能性です。「ヘリコプターより安くなる」と断定しているわけではなく、あくまで可能性として書かれています。
何に使うのか|国が想定する使い方
国の文書は、官民協議会での検討をもとに使い方を挙げています。人を運ぶ使い方が9つ、物を運ぶ使い方が4つです。
| 分類 | 使い方 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| 旅客 | 空港からの二次交通 | 空港と大都市圏の商業施設やホテルなどを結ぶ |
| 旅客 | 都市内・都市間の輸送 | 都市内での輸送、都市中心部と地方・郊外を結ぶ輸送 |
| 旅客 | エンターテインメント・観光 | 娯楽施設や観光地での周遊飛行、観光地へのアクセス |
| 旅客 | 離島・山間部 | 離島と本土、離島間、山間部と都市部を結ぶ |
| 旅客 | 医療 | 災害時や急病時の医師・患者の輸送、病院間の輸送 |
| 旅客 | 災害時の人員輸送 | 地震などで孤立した地域からの輸送 |
| 荷物 | 緊急物資・施設間・海上や山間部・都市部 | 災害時の物資、企業の施設間の輸送、遠隔医療を含む荷物輸送など |
出典: 運用概念 第2版 2.3章をもとに編集部がまとめました。
いきなり全部が始まるわけではありません。ロードマップでは、最初は大都市圏の限定的な二地点間の運航や遊覧飛行、地方部の遊覧飛行や貨物輸送の実証から始まります。ドクターヘリの補完(医師や患者の移動など)は2030年代前半の項目です。時期のくわしい読み解きは空飛ぶクルマはいつ実用化されるのかで扱っています。
どこから乗るのか|バーティポートという専用の離着陸場
空飛ぶクルマは、基本的に自宅の前からは乗れません。「バーティポート」と呼ばれる専用の離着陸場から乗ります。SkyDrive は、ビルの屋上や駅周辺、空港などへの整備が想定されていると説明しています。
国の文書によると、バーティポートには乗客の乗り降り、荷物の積み下ろし、整備に特化したものや、それらが混ざったものがあります。運用の規模が小さいので、従来の空港より早く安く作れると期待されています。最初のうちは既存の空港やヘリポートを使うことも想定されていますが、充電やバッテリー交換の設備、バッテリー火災に対応した消火設備など、追加の施設が必要になる可能性があります。
国は基準が正式に決まるまでの暫定の手引きとして「バーティポート整備指針」を2023年12月に出しました。実際に作られた例の1つが、Osaka Metro が整備した大阪市港区の「大阪港バーティポート」です。住宅や店舗が近い都市部にあり、SkyDrive が2025年9月にデモ飛行を行いました(SkyDrive の発表)。Soracle も2026年3月7日に、この場所を運航拠点とする取り組みについて Osaka Metro と基本合意書を結んだと発表しています(発表)。
都市部で場所を確保するのは簡単ではありません。SkyDrive は2026年10月1日の発表で、離着陸場の不足が大きな課題で、広い用地が少ない都心部では一から土地を取得するのは非常に難しいと述べ、大阪市内のビル屋上にある既存の緊急離着陸場を、代替空港(目的地へ着陸できない場合などの備えとなる離着陸場)として活用できないか調査すると発表しました(発表)。
日本の現状|2026年11月時点で何が決まっているか
日本の現状を、国・機体・運航・自治体の順に確かめた範囲でまとめます。
| 分野 | 主な動き | 日付 |
|---|---|---|
| 国 | ロードマップを改訂。2027年から2028年に一部地域で商用運航開始、2030年代前半に遠隔操縦の旅客輸送、2030年代後半に自動・自律運航の一部実現と明記(経済産業省) | 2026-03-27 |
| 国 | 政府の「日本成長戦略」で、空飛ぶクルマが戦略17分野のうち航空・宇宙分野の主要技術に位置づけられた(SkyDrive の発表による) | 2026-07-21 閣議決定 |
| 機体 | SkyDrive は日本の国土交通省航空局と米国 FAA に対する型式証明活動を進め、2028年の商用化を目指すと発表(発表) | 2026-07-02 |
| 機体 | Archer の Midnight の型式証明申請を国土交通省航空局が受理(Soracle の発表) | 2026-08-21 |
| 機体 | Joby は FAA の型式証明を日本で有効にする手続きを航空局に申請(Joby の発表) | 2022-10-18 |
| 運航 | Soracle(日本航空と住友商事の合弁)は商用運航の開始を2028年度以降へ遅らせると発表(お知らせ) | 2026-08-10 |
| 運航 | ANAホールディングスと Joby が合弁会社設立の本格検討で基本合意。将来100機以上の導入を目指す(発表) | 2025-08-05 |
| 自治体 | 東京都が実装プロジェクト1期の実施事業者を決定。2030年の市街地での商用運航の実現を目指す(東京都) | 2025-10-23 |
国の見立てとしては、官民協議会の資料に、空飛ぶクルマの2050年の世界市場規模は約184兆円と予測されている、という記述があります(予測した機関の名前は資料に書かれていません)(大阪・関西万博後の社会実装の実現イメージ、2025年8月28日)。ただし、これは予測であり、資料自体も、早期に商用運航を始めて実績を積むことや、社会に受け入れられることの重要性を繰り返し書いています。
海外では、中国の EHang の EH216-S が2023年10月に中国民用航空局の型式証明を受け、2025年3月に運航会社が最初の運航許可を得たと同社は発表しています(EHang の公式ページ)。これは操縦者が乗らない機体で、日本で商用運航しているわけではありません。米国では Joby が2026年9月にテキサス州で政府の試験プログラム(eIPP)の飛行を始めています(Joby の発表)。
残っている大きな課題
商用運航までに越えるべきことは、機体の型式証明だけではありません。国の文書は主な課題を社会受容性、機体と運航、低い高度の空の交通整理、都市との統合に分けています。社会が懸念する最も重要な要因として騒音と安全性を挙げ、ほかにプライバシーや環境への影響、運賃の妥当性なども挙げています。収益が出て続けられる市場を作ること、保険や他の交通機関との連携も必要とされています。
何がどこまで進んでいるかは、実用化の時期の記事でロードマップの表と一緒に整理しています。
空飛ぶクルマを支える仕事
空飛ぶクルマには、操縦士以外にも多くの人が関わります。国の文書は主な関係者の役割を挙げています。それぞれどんな仕事なのかを、役割で見てみます。
| 担い手 | 役割(国の文書より) | 関係する仕事の例 |
|---|---|---|
| 機体メーカー | 機体の設計と製造、型式証明の取得、安全の維持 | 設計、解析、試験、製造、認証 |
| 運航者 | 運航の管理、機体と操縦者の用意、操縦者の訓練、機体整備の体制、保安検査と搭乗手続き | 操縦士、運航管理、安全管理、搭乗の支援 |
| バーティポートの運営者 | 施設の維持管理、ターミナルの運営、地上の安全、充電の監督 | 用地の開発、施設の運営 |
| 整備・地上支援の会社 | 充電、点検、整備、乗客の誘導、保安検査 | 整備士、地上の支援 |
国の文書には、操縦者や整備士など運航に関わる人材の養成を進める必要があること、産業の規模を考えると操縦者の需要の増加に関連した課題も出てくる可能性があることが書かれています。商用運航が広がる前の段階から、人を育てる準備が必要ということです。
では、いまどんな求人が出ているのでしょうか。2026年11月5日時点で当サイトに掲載している求人は、5社の100件です。職種ごとの内訳は次のとおりです。
職種ごとの件数と公表された年収の表は空飛ぶクルマの仕事と職種にまとめています。
商用運航を始める前の段階なので、いまの求人は機体の開発に関わる職種が中心です。パイロットや運航に関わる職種は7件、整備に関わる職種は4件を掲載しています。会社ごとの内訳は次の表のとおりです。
会社ごとの役割と掲載中の求人は日本の空飛ぶクルマの企業一覧にまとめています。
仕事の内容は空飛ぶクルマの仕事と職種、会社については空飛ぶクルマの会社一覧にまとめています。今の求人は求人一覧から見られます。
出典
この記事で使った一次資料です。確認日はいずれも2026年11月3日です。
- 空の移動革命に向けた官民協議会「空飛ぶクルマ(AAM)の運用概念 第2版」(2026年3月27日)
- 空の移動革命に向けた官民協議会「空の移動革命に向けたロードマップ」(2026年3月27日)
- 経済産業省「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂しました(2026年3月27日)
- 国土交通省 報道発表「空の移動革命に向けたロードマップを改訂しました」(2026年3月27日)
- 国土交通省「空の移動革命に向けた官民協議会」
- 国土交通省「空飛ぶクルマに関する制度整備の概要」(2024年4月23日)
- 官民協議会「大阪・関西万博後の社会実装の実現イメージについて」(2025年8月28日)
- 第8回官民協議会 資料「空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)」(2022年3月18日)
- 2025年大阪・関西万博 公式サイト「空飛ぶクルマ」
- 東京都「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」1期の実施事業者を決定(2025年10月23日)
- SkyDrive「eVTOL・空飛ぶクルマ・SkyDriveに関するFAQ」、機体ページ
- SkyDrive の発表: 大阪・夏のデモフライトを完了(2025年10月9日)、時速100kmで安定飛行を確認(2026年6月24日)、累計300フライト(2026年7月2日)、瀬戸内海の遊覧を想定したデモフライト(2026年7月13日)、日本成長戦略(2026年7月30日)、機体設計コンセプト(2026年9月24日)、屋上緊急離着陸場の活用(2026年10月1日)、SD-05の個人向け予約販売(2023年4月13日)
- Honda「eVTOL 技術解説」、Honda R&D「Hybrid eVTOL」
- Joby Aviation「Technology」、Joby Applies for Japan Aircraft Certification(2022年10月18日)、Joby Launches eIPP Flights in Texas(2026年9月10日)
- ANAホールディングス プレスリリース(2025年8月5日)、ANAホールディングス 2026年3月期第2四半期決算 説明会資料(2025年10月30日)
- Soracle「商用運航開始時期に関するお知らせ」(2026年8月10日)、Soracle「事業紹介」、Midnight の型式証明申請に関する発表(2026年8月21日)、Osaka Metro との基本合意(2026年3月7日)
- 丸紅: デモフライト実施について(2025年)、機体損傷について(2025年5月1日)、原因調査結果とVX4の見送り(2025年7月8日)、デモフライトの再開について(2025年7月11日)
- EHang: EH216-S の製品ページ、耐空性の経緯、中国の希望小売価格(2024年2月1日)、中国以外の希望小売価格(2024年2月)
各社の数字は各社が公表したもので、当サイトが確かめた測定ではありません。将来の時期は国や各社の目標で、確定した予定ではありません。




