決まっていること・まだ決まっていないこと

「空飛ぶクルマの免許」という名前の新しい免許があるわけではありません。空飛ぶクルマは航空機として扱われるので、航空法の資格の仕組みの中で、機体の型式ごとに資格を付ける方針です。国土交通省の資料で確かめられることを、最初に表にまとめます。

項目状況根拠
人が乗る機体の操縦に資格が要るか要る。航空法の技能証明と航空身体検査証明が必要航空法 第28条
資格の付け方決定。操縦士・整備士とも当面は型式限定(機体の型式ごとの資格)を付ける制度整備の概要(2024年)
航空機の種類方針あり。型式証明で分類される「飛行機」か「回転翼航空機」に合わせる基準の方向性(2023年)
資格に必要な飛行経歴枠は決定、中身は型式ごと。事業用・自家用について型式ごとに大臣が定める改正を行った。具体的な時間は公開資料で確かめられなかった制度整備の概要(2024年)
2年ごとの技能審査決定。空飛ぶクルマは既存の種類と分けて「型式ごと」に審査する制度整備の概要(2024年)
事業で飛ぶ機長の飛行経験枠は決定、時間は未定。当該型式の飛行経験は「型式の特性に応じて定められた時間」とし、FSB の結果を踏まえて個別に決める制度整備の概要(2024年)
既存の資格を持つ人が移るときの条件確かめられず。2023年の資料では「引き続き検討」。その後の具体的な条件は公開資料で確かめられなかった基準の方向性(2023年)
地上から遠隔で操縦する人の資格未定。国の資料は枠組みが必要としている段階ConOps 第2版(2026年)
操縦者が乗らない旅客輸送の制度未定。ロードマップに今後の制度整備として書かれているロードマップ(2026年)

FSB(Flight Standardization Board)とは、機体の型式ごとに、操縦士の訓練や資格の条件を評価する場のことです。この表は2026年11月3日に確かめた公開資料の範囲で、これより新しい通達が別に出ている可能性はあります。最新の情報は国土交通省航空局のページで確かめてください。

国の ConOps は、日本では初期の運航に必要な基準などの制定を2023年度に完了し、2027/2028年度の商用運航開始とその後の運航拡大に向けた基準などの検討を順に進めている、と説明しています。つまり「枠は作った。機体ごとの細かい条件はこれから」というのが今の段階です。商用運航の時期については空飛ぶクルマはいつ実用化されるかで説明しています。

なぜ航空法の資格が必要か|ドローンの国家資格とは別物

航空法は、「航空機」を「人が乗つて航空の用に供することができる」飛行機や回転翼航空機などと定め(第2条)、「無人航空機」を「構造上人が乗ることができないもの」のうち遠隔操作や自動操縦で飛ばせるものと定めています。人が乗れる機体かどうかで、法律上の入口が分かれているのです。

ドローンの国家資格(無人航空機操縦者技能証明)は、この無人航空機を飛ばすための制度です。一等と二等があり、有効期限は3年です(国土交通省の無人航空機操縦者技能証明のページ)。人が乗れる構造の空飛ぶクルマには、そのまま使える資格ではありません。ドローン資格を持っているから空飛ぶクルマを操縦できる、とはならないのです。

比べる点空飛ぶクルマ(人が乗る機体)ドローン(無人航空機)
法律上の扱い航空機無人航空機(構造上人が乗れない)
操縦の資格航空従事者の技能証明(事業用操縦士など)無人航空機操縦者技能証明(一等・二等)
身体の検査乗り組んで運航する人は航空身体検査証明が必要(第28条)資格の試験の中に身体検査がある(指定試験機関の案内)
機体の審査型式証明など機体認証などの別の制度

SkyDrive の FAQ も、乗客として利用する場合は免許や資格は必要なく、操縦には航空関連の資格が必要だと答えています(SkyDrive FAQ)。ConOps は、初期の旅客輸送では従来の航空機と同じく操縦者が乗り、有視界飛行で運航すると見込んでいます。有視界飛行とは、操縦士が自分の目で周りを見て安全を確かめながら飛ぶ方式です。

ドローンの経験は無駄になるのか

資格としては別物ですが、経験が生きる求人はあります。SkyDrive のテストパイロットの求人は、無人航空機の操縦実績を必須スキルにしています。詳しくはこの記事の後半の「実際の求人の条件」で説明します。

日本の操縦士の資格の区分

航空法第24条は、技能証明を資格ごとに分けています。操縦士に関わるのは定期運送用操縦士、事業用操縦士、自家用操縦士、准定期運送用操縦士の4つです。国土交通省の航空従事者の説明は、そのうち主な3つを次のように説明しています。

資格できること(概要)
自家用操縦士報酬を受けずに、無償の運航を行う航空機を操縦する
事業用操縦士報酬を受けて操縦士の仕事をするのに少なくとも必要な資格
定期運送用操縦士路線を定めて定期に運航する便の機長になるのに必要な、最上位の資格

同じページは、操縦士になる場合はふつう自家用操縦士から順に上の資格を取っていくと説明しています。また、航空法第25条は、技能証明に「航空機の種類」の限定をすること、さらに「等級又は型式」の限定ができることを定めています。限定された資格の人は、その種類や型式の機体でなければ操縦できません(第28条第2項)。乗り組んで運航する人には、技能証明に加えて航空身体検査証明も必要です(第28条第1項)。

ヘリコプターの操縦士が別の機種を飛ばすときに、その機種についての資格が必要になるのと同じ考え方を、空飛ぶクルマにも当てはめるわけです。

空飛ぶクルマは「型式限定」が付く

官民協議会の基準の方向性の整理(2023年3月31日)は、航空機の種類を型式証明の分類(飛行機か回転翼航空機)に合わせ、型式ごとの違いに対応するため型式限定を付ける、としました。制度整備の概要(2024年4月23日)も、空飛ぶクルマは世界中で開発の段階で型式ごとの違いが大きいことから、操縦士・整備士ともに当面は型式限定を付けると書いています。

将来、実用段階の型式が増えた場合には、型式をまとめた「等級」としてのグループ分けを検討するとされています。今は「A という機体の資格は、B という機体には使えない」と考えるのが安全です。これは働く人にとって、どの機体を使う会社に入るかが資格に直結するということでもあります。

飛行時間はどう決まるか

従来の制度では、事業用操縦士には飛行機で200時間以上、回転翼航空機で150時間以上などの飛行時間が求められます(航空法施行規則 別表第二、制度整備の概要(2024年4月23日)の説明)。空飛ぶクルマの事業用操縦士と自家用操縦士については、この経歴を型式ごとに大臣が定めるという改正が行われました。FSB での評価などを参考に、型式ごとに検討するとされています。

ですから、「空飛ぶクルマの操縦士には◯時間の飛行経験が必要」と今の時点で言い切ることはできません。型式ごとの具体的な時間は、公開資料では確かめられませんでした。

2年ごとの審査と、機長に求められる経験

操縦の資格を持つ人が航空機に乗り組んで操縦するには、2年以内に特定操縦技能の審査に合格している必要があります。従来は航空機の種類ごとの審査でしたが、空飛ぶクルマは同じ種類でも操縦の特性が既存の機体と異なるため、「型式ごと」に審査すると改正されました。

資格を持っているだけでは、事業として人を乗せて飛ぶ機長にはなれません。制度整備の概要(2024年4月23日)に載っている従来の条件と、空飛ぶクルマでの変更点は次のとおりです。

条件(従来の制度)空飛ぶクルマでの変更
「路線を定めて旅客の輸送を行う場合」に当たらない場合の機長: 500時間以上の飛行経験(夜間飛行10時間以上〔回転翼航空機は5時間以上〕、野外飛行100時間以上を含む)と、その型式で30時間以上その型式の30時間を「型式の特性に応じて定められた時間」に変更。FSB の結果を踏まえて型式ごとに対応
路線を定めた旅客輸送の機長: 回転翼航空機で1,000時間以上、飛行機で1,200時間以上(最少乗組員2名の機体は1,500時間以上、多発機500時間以上を含む)資料の中で空飛ぶクルマ向けの時間の数字は確かめられなかった
路線を定めた機長の慣熟飛行訓練: 25時間以上「型式の特性に応じて定められた時間」とし、FSB の結果を踏まえて個別に対応

また、2023年の資料は、小型航空機の事業者の機長の条件として、乗務する型式について有効な事業用操縦士以上の技能証明、航空身体検査証明、訓練・審査、飛行経験を挙げ、500時間以上という飛行経験が空飛ぶクルマの機長に適切かどうかを検討する必要があるとしていました。空飛ぶクルマの機長の総飛行時間の要件が最終的に何時間になったのかは、公開資料では確かめられませんでした。

国の ConOps は、運航者が操縦者の訓練に責任を負い、機長(PIC)は役割に応じた資格を持ち、所要の訓練や審査を受ける必要があるとしています。実際には、資格の取得だけでなく、入社した会社での訓練と審査もセットになると考えられます。

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これから決まること

国の資料に今後の課題として書かれていることを、4つに分けて説明します。

  1. 操縦士を増やすための基準。ロードマップ(2026年3月27日)は、技能証明の基準整備の項目に「航空従事者拡大のための基準整備」を挙げています。ConOps も、操縦者の需要の増加に関する課題が出てくる可能性があり、訓練方法・テスト手法・ライセンスの枠組みが必要だとしています。
  2. 遠隔操縦の資格。2023年の資料は、操縦者が乗る前提の資格の検討を優先し、遠隔操縦の技能は今後検討を深めるとしました。2026年の ConOps も、遠隔操縦による運航のための訓練とライセンスの枠組みが必要だとしています。遠隔操縦の機長(RPIC)による旅客輸送を「新しい概念」と位置づけています。
  3. 操縦者が乗らない旅客輸送。ロードマップでは、2030年代前半の成長期に遠隔操縦による旅客輸送が始まり、2030年代後半の成熟期に自動・自律運航が進むという絵が描かれています。これは官民協議会の見通しで、確定した予定ではありません。
  4. 新しい機体への対応。ロードマップは、自動・自律運航など多様な機体に対応した制度整備を、その後の課題に挙げています。

国の ConOps が想定する運航の段階と、操縦者の関係は次のとおりです。資格の検討が操縦者の搭乗を優先して進んでいるのは、この順番のためです。

時期(ロードマップ)機体と操縦者の見通し
2020年代後半(導入初期)操縦者の搭乗が中心。一部の貨物は遠隔操縦
2030年代前半(成長期)操縦者の搭乗が中心。一部の旅客で遠隔操縦が始まる
2030年代後半(成熟期)操縦者の非搭乗が中心。一部で自動・自律運航

「将来は自動運転になるから操縦士はいらなくなる」という話をときどき見かけますが、国のロードマップでは導入初期と成長期は操縦者が乗ることが中心とされています。いつどの程度置き換わるかは、公開資料からは断定できません。

海外の動き|アメリカと欧州

海外では、公式に確かめた範囲で次のように進んでいます。日本の資格がそのまま海外で使えるとか、海外の資格がそのまま日本で使えるという意味ではありません。外国の資格を持つ人が日本の技能証明を取る条件は、2023年の資料では引き続き検討とされています。

地域確かめた内容出典
アメリカ(FAA)2024年10月22日に、powered-lift(飛行機とヘリコプター両方の特徴を持つ航空機の区分)の操縦士と教官の資格・訓練についての最終規則を発表。操縦する powered-lift ごとに型式限定を求める。最初の操縦士と教官を育てるための特別な枠組みを、10年間の特別規則(SFAR)で定めたFAA 発表、連邦官報
欧州(EASA)欧州委員会が2024年に、電動エアタクシーの運航や操縦士の資格などの規則を採択。事業用操縦士(飛行機かヘリコプター)に VTOL 機の型式限定を追加する方式を用意。最初から VTOL 機だけで操縦士を育てる訓練の枠組みは開発中とされるEASA 発表、Opinion 03/2023、CM-FCD-001

EASA の Opinion は、この方式では初期の運航に入れるのは従来の航空機の資格を既に持つ経験者だけになり、まずは経験のある操縦士が飛ばす意図だと説明しています。2025年7月には、型式限定の訓練についての指針も公表しました(EASA の発表)。

アメリカも欧州も、そして日本も、「機体の型式ごとの資格」という点では同じ方向です。一方で、未経験から専用の訓練で操縦士になる道がいつ整うかは、確かめた範囲では日本・欧州とも決まっていません。

整備士の資格

整備士も、操縦士と同じく航空法の技能証明の対象です。第24条は航空整備士の資格を次の5つに分けています。業務の範囲は法律の別表の要約です。

資格できること(概要)
一等航空整備士整備をした航空機の確認
二等航空整備士整備をした航空機の確認(整備に高度の知識と能力を要する用途のものを除く)
一等航空運航整備士保守と軽微な修理をした航空機の確認
二等航空運航整備士保守と軽微な修理をした航空機の確認(上と同じ用途のものを除く)
航空工場整備士整備か改造をした航空機の確認(業務の種類の限定あり)

空飛ぶクルマの整備士については、国の資料に次のことが書かれています。

  • 操縦士と同じく、当面は型式限定を付ける。
  • 電動の発動機は従来のタービン発動機やピストン発動機とは異なる能力が求められるため、航空整備士の学科試験に該当する科目を追加する。
  • バッテリーの充電と交換は、設計によっては特別な知識や経験が要らない可能性があるため、「軽微な保守」(有資格の整備士の確認を不要にできる作業)か「一般的保守」かを型式ごとに決める。
  • eVTOL の充電を担当する人は、必要な訓練を受ける(ConOps)。
  • 整備後の確認を行う整備士はライセンスが必要で、整備に必要な知識・技能を身につける訓練方法・テスト手法・ライセンスの枠組みが必要(ConOps)。

具体的な訓練の時間や、既存の整備士が空飛ぶクルマの型式限定を取る条件は、公開資料では確かめられませんでした。機体の整備については、型式証明が出ていない今は、メーカーで整備の手順そのものを作る仕事が募集されています。

実際の求人の条件を見る

制度の話だけではわかりにくいので、いま出ている求人の条件を見ます。当サイトに掲載中のパイロット・運航の求人は7件、整備の求人は4件です(2026年11月5日時点。掲載中の求人だけの数字で、業界全体の統計ではありません)。

求人資格や経験の条件(募集要項より)読み取れること
eVTOLテストパイロット(プロポ操縦)(想定年収650万円〜1,000万円)必須: 無人航空機の卓越した操縦実績、ドローンレースなどの入賞実績、産業用大型無人航空機の実務経験、機体構造への関心。歓迎: 航空法・電波法の知識、RC ヘリの高度な飛行経験など試作機などを遠隔で操縦する仕事で、必須スキルの欄に航空従事者の資格は書かれていない
運航オペレーション準備リーダー(運航部門責任者)(想定年収685万円〜1,300万円)航空会社か航空機使用事業会社での運航部門の管理経験3年以上、航空法に精通、規程の作成と申請の経験飛ばす人ではなく、飛ばす組織を作る人の募集
運航オペレーション準備リーダー(整備部門責任者)(想定年収685万円〜1,300万円)航空会社などでの整備の実務経験と3年以上の管理経験、航空整備士の資格、航空法に精通既存の整備士資格が必須
社内整備士(空飛ぶクルマ - 社内飛行試験)(想定年収544万円〜816万円)航空機整備の経験と、一等か二等の航空整備士(回転翼航空機か飛行機)いまの機体の整備には、既存の航空整備士の資格が条件
飛行規程スペシャリスト(想定年収700万円〜1,000万円)必須: 航空の技術文書の作成・管理経験など。歓迎: 操縦士ライセンス(事業用/自家用)の保有か、パイロットとの業務経験操縦士の資格は操縦以外の仕事でも評価される
航空機技術職・整備士 (固定翼/回転翼整備・技術管理・品質保証・補給管理)(勤務地: 大阪府八尾市(八尾空港内))歓迎資格: 1等/2等航空整備士、1等/2等航空運航整備士。歓迎経験: B505、EC130、EC135 の整備経験いまはヘリコプターなどの整備で、将来は eVTOL の整備も想定と記載

テストパイロットの求人の題名にある「プロポ操縦」は、無線の送信機で機体を遠隔操縦することです。国の試験飛行等に係る法令・通達早見表(令和8年3月現在)は、試験飛行で機体が耐空証明を受けていなければ、機体に乗り組んで操縦する人にも許可(航空法第28条)が基本的に必要で、遠隔や自動で無操縦者航空機を飛ばす場合は別の許可(第87条)が必要だと整理しています。開発中の機体の試験は、商用運航とは別の仕組みで行われるということです。

当サイトの掲載中の求人の中に、商用運航で乗客を乗せて飛ぶ eVTOL の操縦士の募集は確かめられませんでした。機体の型式証明が出る前の段階なので、乗客を乗せる操縦士の募集条件は、まだ公開の募集からは読めません。ほかの職種については空飛ぶクルマの仕事と職種をご覧ください。

目指す人は今どうすればいいか

制度がすべて決まっていない以上、「これを取れば確実」という答えはありません。今の立場ごとに、公開資料から言えることをまとめます。

今の立場公開資料から言えること
事業用操縦士(ヘリコプターか飛行機)を持っている既存の資格に型式限定を付ける形になる方向です。条件は引き続き検討とされています。運航会社の発表や募集を追うのが近道です。
これから操縦士を目指す今の制度で操縦士になる道(自家用操縦士から事業用操縦士へ)は確定しています。一方、空飛ぶクルマの型式だけで新しく資格を取る条件は、確かめられませんでした。
ドローンの操縦の経験があるドローンの国家資格は人が乗る機体には使えませんが、開発の試験飛行で操縦経験を条件にする求人があります。
航空整備士の資格があるいまの機体の整備や整備の仕組みづくりの求人で、資格が条件になっています。
操縦の資格はないが業界で働きたい掲載中の求人の多くは操縦以外の仕事です。求人一覧から探せます。

費用や期間については、機体ごとの訓練の条件が公開されていないため、この記事では書きません。「空飛ぶクルマの操縦士になるには◯百万円」といった数字を見かけても、根拠の資料を確かめてください。

出典

確認日はすべて2026年11月3日です。